キース・ヘリングとは何者か?

明るく、ポップなイメージで世界中から愛されているキース・ヘリング。
ヘリングは「アートはみんなのために」という信念のもと、1980年代のニューヨークで地下鉄駅構内やストリート、つまり日常にアートを拡散させることで、混沌とする社会への強いメッセージを発信し、人類の未来と希望を子どもたちに託しました。ヘリングが駆け抜けた31年間の生涯のうち創作活動期間は10年程ですが、残された作品に込められたメッセージはいまなお響き続けています。
本展は6メートルに及ぶ大型作品を含む約150点の作品を通してヘリングのアートを体感いただく貴重な機会です。社会に潜む暴力や不平等、HIV・エイズに対する偏見と支援不足に対して最後まで闘い続けたヘリングのアートは、時空を超えて現代社会に生きる人々の心を揺さぶることでしょう。

《沈黙は死》 1989年

《無題》 1988年

《イコンズ》 1990年

  • 1

    6メートルの大型作品など150点が集結

    アイコニックなモチーフから、6メートルの大型作品まで、キース・ヘリングの世界観を体現する150点が勢ぞろいします。活動初期のサブウェイ・ドローイング、トレードマークとなったモチーフによる作品《イコンズ》や彫刻、ポスター、晩年の大型作品まで、ヘリングのアートを一堂に体感できる貴重な機会です。

  • 2

    光・闇・喧噪・色彩。ドラマチックに展開する展示空間

    発光する作品、闇に浮かび上がる展示、80年代ニューヨークさながらの喧噪・・・へリングが駆け抜けた10年のストーリーとともに、展示空間は劇的に展開します。一部作品を除き、展示室は写真撮影OKです。

  • 3

    現代へのメッセージ

    「アートはみんなのために」――その信念のもと、核放棄、性的マイノリティのカミングアウトの祝福、HIV・エイズ予防のためのセーフ・セックスなど、社会へのメッセージをアートで訴え続けたヘリング。なかでももっとも象徴的な光り輝くベイビーは、ヘリングが死の間際まで描こうとしたモチーフです。国を超え、世代を超えて響き続けるヘリングのメッセージにご注目ください。

  • 4

    スペシャル・トピック:キース・ヘリングと日本

    日本に特別な想いを抱いていたへリング。数度にわたる来日が縁で生まれた貴重な作品や資料を、当時の写真とともにトピックとして展示します。

《アンディ・マウス》 1986年

『スウィート・サタデー・ナイト』のための舞台セット 1985年

キース・ヘリング財団/中村キース・ヘリング美術館/本展監修者 メッセージ

KEITH HARING

ニューヨーク市営地下鉄にて 1981-82年
Photo by ©Makoto Murata

キース・ヘリング (1958-1990)

アメリカ北東部ペンシルベニア州に生まれる。
1980年代初頭にニューヨークの地下鉄駅構内で、使用されていない広告板を使ったサブウェイ・ドローイングと呼ばれるプロジェクトで脚光を浴びる。

アンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキアと共にカルチャーシーンを牽引し、国際的に高い評価を受ける。日本を含む世界中での壁画制作やワークショップの開催、HIV・エイズ予防啓発運動や児童福祉活動を積極的に展開したことでも知られる。

90年にエイズによる合併症により31歳で死去。

すべて 中村キース・ヘリング美術館蔵
All Keith Haring Artwork© Keith Haring Foundation

キース・ヘリング展の情報を配信中!

公式X (Twitter)

MESSAGE

キース・ヘリング財団 エグゼクティブ・ディレクターギル・ヴァスケス

親愛なる皆様、アートファンの皆様へ
キース・ヘリングの素晴らしい世界に皆様をお迎えすることは、キース・ヘリング財団のエグゼクティブ・ディレクターとして大きな喜びであり、胸が躍る思いです。キース・ヘリングは、日本に対して特別な想いを抱いていました。彼にとって日本とは深いつながりを感じる場所だったのです。へリングは日本という美しい国にくり返し訪れ、その際に得たインスピレーションや優しさに満たされた経験は、彼の創作に取り入れられました。またへリングは、当時の活気あふれる文化、豊かな歴史、そして伝統とモダンの調和のとれた融合に心を奪われました。そしてアートという世界共通のコミュニケーション手段はあらゆる垣根を越える、ということを思い出させてくれたのが日本だったのです。
キース・ヘリングの作品は、今日の私たちにとっても重要で意義深いものです。生き生きとしてアイコニックな描写は、社会のあり方や公平性、連帯、といった極めて重要な問題を表現しながら、私たちに問いかけ続けます。へリングのアートは、私たちの世界にポジティブな変化を育むという点で、創作の力を、時を超えて証明しているのです。
本展覧会はへリングの人生とレガシーを祝い紹介するものでありながら、彼のアートがきっかけとなり生まれるであろう社会的な対話へと皆さまをお招きするものです。私たちは今、彼が大切にしてきた信条が叶う世界を目指して奮闘していると言えるでしょう。皆さまがキース・ヘリングのアートからインスピレーションや喜び、そして作品が伝えていることを見出すことを願っています。
「キース・ヘリング展 アートをストリートへ」―アートを通した旅、愛、そして尽きることのない博愛の世界へ、ようこそ。

キース・ヘリング財団 エグゼクティブ・ディレクター
ギル・ヴァスケス

Dear Friends and Art Enthusiasts,
With immense pleasure and excitement, I, Gil Vazquez, the Executive Director of the Haring Foundation, welcome you to the spectacular world of Keith Haring. As we embark on this remarkable journey through his artistry, I am deeply honored to invite you to Keith Haring: Art to The Streets exhibition, touring Japan.
Keith Haring held a special place in his heart for Japan, where he felt a profound connection. His visits to this beautiful country filled him with inspiration and warmth, which he channeled into his art. He was captivated by the vibrant culture, the rich history, and the harmonious blend of tradition and modernity. Japan reminded him of the universal language of art transcending boundaries.
Today, Keith Haring's work remains as relevant and significant as ever. His vibrant and iconic imagery continues to speak to us, addressing crucial issues such as social justice, equality, and unity. Haring's art is a timeless testament to the power of creativity in fostering positive change in our world.
This exhibition is a celebration of Haring's life and legacy and an invitation for you to join the ongoing conversation that his art ignites. We hope you find inspiration, joy, and meaning in the art of Keith Haring as we strive for a world that embraces the principles he held dear.
Welcome to Keith Haring: Art to the Streets —a journey through art, love, and the enduring spirit of humanity.
Warm regards,
Gil Vazquez
Executive Director,
Keith Haring Foundation

中村キース・ヘリング美術館館長中村和男

人種の坩堝である大都市ニューヨークの混沌とした中で生まれたキース・ヘリングのアートは、ポップでそのシンプルな作品が世界中で愛されています。ファッション性もあり、コマーシャルの分野とも行き来をできるアートでもありましょう。しかし彼は31年という短い人生においてアートを天職とし、アートの領域に挑戦を続けると同時に、アメリカ資本主義から生じる多くの社会問題に多くの問いを投げかけました。ヘリングが去ってから30年。環境問題や自然災害、戦争の勃発など今なお世界が混沌する中で、彼のメッセージは現代社会に生きる私たちに響いています。本展で名声と同時にエイズという死の宣告を受けたヘリングが、怯むことなく人を愛し、心の繋がりを求め、最後まで生命の尊さを表現した素晴らしい芸術に触れていただけることを願っています。

PROFILE

中村和男(なかむら・かずお)

1946年山梨県甲府市出身、薬学博士。
京都大学薬学部卒業後、三共(現 第一三共)株式会社に入社し、世界的に有名なブロックバスター「メバロチン」(高脂血症、家族性高コレステロール血症治療薬)の開発プロジェクトリーダーを務めた後に独立。1992年に日本初のCRO(医薬品開発支援)の企業であるシミックを創業し、製薬企業を総合的に支援する独自のビジネスモデルを確立。現在ではこれまでのビジネスをさらに発展させ、個々人の健康価値向上に貢献する企業を目指している。1987年にニューヨークでキース・ヘリングの作品と出会い、蒐集を始める。2007年、中村キース・ヘリング美術館を山梨県北杜市小淵沢に設立。キース・ヘリングの世界で唯一の美術館となる。

本展監修梁瀬薫

新たな創造の可能性を秘める人工知能の発達で、あらゆることが可能になる時代を迎えている今、なぜキース・ヘリングなのでしょうか。コンピュータが現代ほど普及しておらず、インターネットもスマートフォンもない時代にストリートで生まれたアートは色褪せることなく生き続けています。ヘリングのアートに力があるというほかありません。 短い人生において彼のアートは生きる力につながっていました。何があっても、どんな場所でも自分の手で思いを形にし、人に伝え共有したのです。幼い頃に父親と描いた線が形になっていく面白さに夢中になったのはヘリングだけではありません。子供はみんな言葉より先に手を動かすのです。ヘリングはその感覚を大人になっても忘れませんでした。この展覧会を通して、自分で考え、肌で感じることがどれだけ自由なことか、そして美と創造を求め続ければいつしか人の心を動せるということを伝えたいと思います。

PROFILE

梁瀬薫(やなせ・かおる)

ニューヨーク在住。
中村キース・ヘリング美術館顧問
国際美術評論家連盟米国支部(Association of International Art Critics USA ) 美術評論家/ アート・ジャーナリスト
1986年MoMA(ニューヨーク近代美術館)の仕事でNYへ渡る。以来、(株)美術出版社ニューヨーク支部を立ち上げ海外情報事業を担当。
美術評論家兼ジャーナリストとして美術手帖、Tokyo FMなど多くのメディアに寄稿。アートコンサルティング、展覧会企画とプロデュース、展覧会カタログ制作など、コンテンポラリーアートを軸に幅広く活動。2015年非営利団体ニューヨーク能ソサエティーのバイスプレジデント就任。日本の文化と伝統芸術の紹介と教育に携わる。共著に「マイ・アートーコレクターの現代美術史」(1998年)スカイドア社。